□予選リーグ 第5試合(9月22日 06:30〜08:00)・第6試合(9月22日 08:30〜10:00)上流エリア

2日目の朝を迎えた九頭竜川。味方に付けるのは誰か。
 1日目の結果と暫定順位は懇親会場で発表される。残すは2試合、最大12ポイントを取れるので、決勝進出ラインを仮に27ポイントとすれば、この時点で15ポイント以上の選手は可能性があることになる。 今回の場合、暫定13位の高木選手の15.5ポイント以上が2日目に希望を繋げたことになる。懇親会は全ての選手が壇上に上がりインタビューを受ける。突っ込んだ質問の返答に他の選手も注目する。

 第4、第5試合は上流エリアが選定されていた。1日目は全ての選手が同じブロックを戦うことは無いが、2日目は前日戦った同じブロックに入る選手とそうではない選手が出てくる。
 暫定上位13名の状況を見てみよう。初めてのブロックになったのはそのうち4選手、ABブロックに小澤剛選手、高木選手、CDブロックに楠本選手、島選手となった。塩野、松田、高尾、八木沢の4選手は1日目と同じABブロックとなった。

第5試合、ここが勝負どころとポジションキープのために走る松田選手。
 その中でも塩野選手と八木沢選手は朝一の試合を1日目と同じAブロックで戦う。
 CDブロックが2回目になる選手は小沢聡、井上、玉木、沓澤、三嶋の5選手、こちらでも朝一を同じブロックで井上選手と沓澤選手が戦うことになった。当然昨日入ったブロックで、尚且つ同じような時間帯を戦えるのは有利に思えた。しかしダム放水の加減か、水位が大きく下がった九頭竜川は選手たちに前日とは違った新たな判断を求めて来たのだった。
 2日目の朝はさらに早い。まだ暗い九頭竜の河原に続々と集まる選手たちの車のライトが静寂を破る。やや雲が出るとの予報だったが、鮮やかな朝焼けが昨日に続く良い天気を予感させた。
 

王者小澤剛選手に対峙する塩野選手は気持ちで負けることなく自分の釣りを貫いた。
〈第5試合 Aブロック〉
 第5、第6試合は塩野、松田、高尾、小澤剛、八木沢、矢吹選手の組に注目した。上位2名に逆転を狙う高尾、小澤剛、八木沢選手、今後に繋げる試合にしたい矢吹選手と予選リーグの方向性を左右する組になりそうだ。

 そのAブロックの最初のポジション取りは、上流から放水口下流の左岸分流瀬肩に小澤剛選手が入った。その下流、分流平瀬には塩野選手が第1試合と同じ立ち位置を確保した。納得の位置取りだが、第1試合では腰近くまであった水位が膝上ほどになっている。
 その下流瀬肩に矢吹選手、松田選手は第2試合で釣った場所を選んでいた。松田選手はこの試合が勝負どころと判断したのだろう。1番でスタートすると猛ダッシュで走ってそのポイントを確保した。第2試合の時、すぐ下で高尾選手が入れ掛かりしたのを見ていたのだが、その場所は選ばなかった。

第5試合開始30分、初日に掛けた場所を見きり移動する塩野選手

 高尾選手は当然のようにその場所へ。八木沢選手ははるか下流の瀬肩にポジションを構えたようだ。昨日は水が高く誰も攻めていないポイントだ。

 ここは河川敷に芝の公園があり釣り人の野営地になっている。やや寒くなった朝を迎えた多くの釣り人が試合の行方を見守っていた。エアホーンの音が鳴り響き第5試合がスタートした。 

 好スタートを切ったのは松田選手、開始5分、7分と掛ける。八木沢選手も下流で良いスタートを切ったようだ。昨日の反応を得られない高尾選手はその場所を捨てて瀬に下って行った。水位が落ちて鮎が動いたか。攻めやすくなった瀬に望みを賭ける。

 多くのギャラリーが注目する小澤剛選手の竿は一向に曲がらない。徐々に瀬に入っていった開始17分、やっと掛けたがこれがバレる。高尾選手と同じように昨日と違う反応に戸惑う塩野選手。「1匹掛かれば」と我慢したが開始30分、ついに動いた。動いた先は松田選手のやや下手、高尾選手が捨てたポイントだ。塩野選手はここへ移動してすぐに1匹目を掛けと終了までにもう1匹追加した。松田選手は残り15分で2匹追加し1位を獲得し、塩野選手を逆転し総合首位に立った。動いて結果を出した塩野選手の一方で最初の場所にこだわった小澤剛手だが、残り30分で1匹掛けるに留まった。この場所は水位が下がった昨晩、しっかり網入れを行っていたことを選手たちは知らない。

第6試合、決勝進出へ向け横綱相撲を見せる松田選手
 
松田選手の下流で追随する塩野選手。引っ張られるように決勝
進出を果たした。                    

第6試合に逆転の望みを賭け、坂東島の瀬肩で勝負に出た八木沢選手だったが。
〈第5試合 C、Dブロック〉
 CDブロックでも上位進出を賭けた熱い戦いが行われていた。Cブロックでは小沢聡選手が1位を獲得し、総合3位をキープした。島、楠本選手が3位、4位となったが総合順位をここで下げてしまう。

 Dブロックでは昨日の第4試合から連続の1位を沓澤選手が決め、総合3位の小沢聡選手に0.5ポイント差と詰めた。
 沓澤選手に続き単独2位を獲得した三嶋選手も総合9位から6位へと押し上げ、最終第6試合に可能性を残した。
 玉木選手もここで上位を掴めば決勝進出へ大きなチャンスだったが、伸び悩んだ。このブロックは前日の第2試合で、16匹を釣り良い感触で臨めたはずだが、大きく下がった水位と前日より早い時間の試合だったことが状況を変化させたか。

坂東島の瀬を攻め、入れ掛かりを演じたが、それでも王者は納得していなかった。
 総合3位の小沢聡選手と同ポイントで4位の好位置にいた井上選手もこの第5試合は正念場だった。ブロックも前日の朝と同じDブロックである。昨日の状況からトロで勝負と決めポイントに入ったが、思った以上に流れが無く、複合ラインでは思うように攻められない。何時もなら必ずポケットに入れてあるフロロ仕掛けを九頭竜川ということで携帯していなかったのだ。「しまった」と思った時には時すでに遅し。移動のタイミングも逃して痛恨の5位、総合順位を11位と大きく落としてしまった。

 第5試合を終えて9位、20.5ポイントの高尾選手までが上位3名に入る現実的な可能性が残った。


第3試合まで連続1位でスタートダッシュを決めた高尾選手だったが、名手であっても読み辛い今回の九頭竜川だった。
〈第6試合 Bブロック〉
 いよいよ決勝進出へ向けて最後の第6試合が始まった。気温24℃、水温16℃、微風と条件は予選リーグ中一番か。

 上位2名が入るBブロック、坂東島エリアを見てみる。おとり配布所前のトロ尻に松田選手、20mほど下に塩野選手、その下瀬肩に八木沢選手が並んだ。3名ともここは第1試合、第2試合で入った場所。松田選手は第1試合で立った位置と同じだ。ただその時よりは随分水位が下がっていた。八木沢選手が立つ瀬肩は誰が見ても1級ポイントに見えるが、どうなるか。

 開始2分、塩野選手が掛けると松田選手が6分に掛けて追随する。二人は結局大きく移動することなく終了まで掛け合いを見せた。結果、松田選手は込13匹、塩野選手が込11匹で2位、3位となり決勝進出を決めた。松田選手はV背針を常用し、糸は水面と30〜45°でほぼ自分より下流を探っていた。ブレない目印が印象的だった。

良型を掛ける小澤剛選手
 
本来であればこの瀬を縦横無尽に攻めていく姿があったはずの
小澤剛選手だったが。何がそれを躊躇させたのか。     

見えない九頭竜川に恐怖心を覚えたと言うが、最後まで果敢に攻め続けた塩野選手
 塩野選手は頻繁に竿先を動かす。糸を立てた操作もしていたが、自分より上流に行くとまた戻して、横に動かすように探っていた。
 少し下の瀬に行くと多くのギャラリーの視線の先には小澤剛選手が居た。周辺では一番きつい流れに入り、瀬を攻めていた。おとりが留まるところを探り、そこで反応を待つ。答えは早く出る。FWverybestは大きく曲がり数歩下がりながら良型を抜く。皆が期待した九頭竜川の鮎釣りを見せてもらった。小澤剛選手はドンブリを喫しながらも込14匹とし1位を獲得しが時すでに遅し。トップ3には食い込めなかった。
 瀬では高尾選手も昨日は攻められなかった場所を立ち込んで攻めていた。40分から10分ほどで4匹入れ掛かりもあったが、選手以外の釣り人も多く思うように動けなかったようだ。
 1位獲得が決勝進出の条件となった八木沢選手も上位3選手を凌駕することは出来ず2年連続の決勝進出はここで途絶えた。

選手たちの後に残された予備の道具がまさしく戦場のようだ。
〈第6試合 Cブロック〉
 Cブロックでは第5試合終了時暫定4位から6位の沓澤、三嶋、玉木3選手が入った。決勝進出を賭けての激しい戦いが展開された。それはブロック・試合別釣果にも表れた。合計62匹と最も釣れたブロック・試合となった。

 ここでは井上選手が第5試合の借りを返すがごとくの込13匹で1位、針職人、東選手が込11匹で三嶋選手と2位を分けた。玉木選手は第1試合で込11匹の2位となったブロックだったが、水位変化と言う状況に適応できなかったのか込7匹で沈み、初出場での決勝進出には至らなかった。惜しかったのは沓澤選手も同じだ。2回のバレとドンブリも喫し「あと1匹」に泣くこととなった。三嶋選手はこのときはまだ決勝進出を果たしたとは思っても見なかっただろう。それは名手小沢聡選手の「まさか」を期待するしかなかったのだから。


三嶋選手と師を同じくとする横山選手は2006年3位以来の上位進出を狙ったが。
〈第6試合 Dブロック〉
 その「まさか」がDブロックでは起こっていた。小沢聡選手もDブロックは第1試合で入り、尚且つ1位を獲得していた。当然勝算はあったはずだ。第1試合と同じく岸際をまず攻めた。1匹掛かったものの白く細い小さな鮎でおとりとして機能しなかった。前日の感触から岸際にはまだ可能性があると攻めたが水位低下のせいか反応がない。
 ここは前試合で井上選手が苦戦した場所だった。井上選手が下流で掛ける沓澤選手を見て釣り方か、ポイントかと悩んだように、小沢聡選手の下流では楠本選手がやや沖に出て掛けるのが見えていた。
 岸際を諦め沖へ出る。水位は下がったものの濁りはまだまだ残っていて石があるのかさえも判断できない。弱いおとりでは竿からの情報では判断できない。「おとりが替われば攻めに転じよう」と我慢の釣りをしたが、掛かってくれる鮎はとうとう現れなかった。
結果同率の5位で1.5ポイント追加に留まり、ここで無念にも連覇、そして前人未到のV5達成の夢も今回は潰えた。

第6試合を終えさすがに疲れを見せる八木沢選手。全てを出し切ったが。
〈決勝へ〉
 24名の選手それぞれの戦い方、組合せ、九頭竜川の状況変化が複雑に絡み合って順位と言う単純な結果になる。傍で見ていると非常に残酷なものだなと感じてしまったが、敗者がいるから勝者がいるのは競技の世界では当然でもある。

 過酷な予選リーグを終えた結果、30.5ポイントの好成績で松田選手が1位を獲得、松田選手に喰らいついて最後まで離れなかった塩野選手が2位、臨機応変に戦い、判断力、適応力で居並ぶ名手たちに勝った三嶋選手が3位で頂上決戦へコマを進めた。
 頂点を掴むのは2007年優勝以来6年ぶりの頂点を狙う松田選手か。予選リーグでも大きく成長したかのように見える参加選手中最年少の塩野選手がこのまま頂点まで駆け上がるのか。念願の初優勝を狙う三嶋選手か。九頭竜川で初のジャパンカップを手にする者はだれか。全国参加者2,500余名の頂点が決まる。

第6試合も危なげなく戦い、予選リーグ1位を決めた松田選手。

結果は残せなかったが、この経験は矢吹選手をまた強くしたであろう。